- Q:皮膚科に乾癬(かんせん)の湿疹で通院しています。最近になって、指が腫れて痛いのと、足首や足の裏も痛くて困っています。リウマチとか、膠原病じゃないの?と周りの友人に言われて心配です。(さいたま市:40代男性)
A:おっしゃる通りで、指全体がソーセージのように腫れています。足はアキレス腱と足指も付け根も腫れていますね。あまり症状は無いようですが、関節エコー検査をすると手首の関節にも炎症が起きています。血液検査でリウマチや他の膠原病が無い事を確認してからですが、いま皮膚科で診て頂いている乾癬が原因でおきる、乾癬性関節炎(かんせんせい かんせつえん)が原因かと思われます。一緒に検査と治療を進めて行きましょう。
リウマチとか、膠原病じゃないの?
乾癬(かんせん)、乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)ってなーに?
乾癬(かんせん)は皮膚に湿疹ができる病気で、皮膚科がご専門の病気になります。
サクッとご説明すると、乾癬は免疫細胞が皮膚や爪で暴れて悪さをする病気です。その結果、皮膚に境目がはっきりした少し盛り上がった赤い湿疹ができて、しかもその湿疹にカサカサしたかさぶたができて、ポロポロと落ちてくるのが特徴です。
そのため、頭皮の中に乾癬ができると、剥がれたかさぶたがフケのように見えてしまって、髪の毛やスーツの襟にフケが付いているように目立ってしまって困っている、といったお悩みもお聞きします。
また爪に症状がでると、爪に小さな凹みができたり爪が剥がれやすくなったりします。
そんな乾癬ですが、日本では約50-60万人の患者さんがいらっしゃると言われています。
欧米に比べると少ないのですが、実は近年の生活習慣の欧米化に伴ってか、日本でも乾癬の方の人数は増えてきていると言われています。
ワンポイント解説
そんな皮膚の病気である乾癬ですが、その中の15%前後の方が実はリウマチにそっくりの手指の痛みや足の痛みや腫れを起こしてきます。
これを、乾癬性関節炎(かんせんせい かんせつえん)とよびます。皮膚の湿疹が、リウマチの様な関節の痛みや腫れを起こしてくるなんて、ちょっと意外ですよね。実際にリウマチかも?と思って受診された患者様に、「皮膚科で乾癬って言われたことないですか?」「ご家族が親戚にも乾癬の方はいらっしゃいませんか?」とお聞きして、「えっ、湿疹が関節に関係あるの?」と驚かれる方が良くいらっしゃいます。
さらに詳しくみると、皮膚に乾癬の湿疹が出た人の平均年齢は30歳代後半、関節に痛みが出てきた人の平均年齢は40歳代後半となっています。そして、関節が痛くなった方を調べると、70%の人は先に乾癬の湿疹がでていて、その後から関節の痛みがでてきています。
なので、今皮膚科に乾癬の湿疹で通院されている方で、リウマチのような手足の痛みや腫れが出てきた場合には乾癬性関節炎を考える事が大切です。
しかもこの乾癬性関節炎、リウマチと同じようにしっかり治療をしないと骨を破壊していきます。そうすると、手指や足指が曲がったり、手首や足首が曲がったまま固まってしまって動かせなくなってしまう事があります。ですので、リウマチと同じようにしっかり治療をしていく事が大切です。
リウマチのお薬がここ10年で格段に進歩したように、乾癬性関節炎のお薬もとてもよくなり、痛みや腫れをしっかり治して、しかも皮膚や爪の乾癬も綺麗にする事ができるようになっています。乾癬性関節炎の治療は僕らのようなリウマチ科の医師が専門になりますので、ぜひ乾癬と言われている方で手足の痛みが出てきた場合にはご相談くださいね。
・皮膚が赤くなって、盛り上げる
・その表面がカサカサして、白っぽいかさぶたができる
・かさぶたが、フケのようにポロポロおちる
・痒みは約半分の方にみられます
・髪の毛の中や髪の生え際といった頭皮、肘や膝の伸ばす側に皮疹が良く見られます。
・その他、普段刺激が加わる場所の皮膚に湿疹が出やすい傾向があります。
・頭。お尻、肛門周りに乾癬の湿疹がある方は、乾癬性関節炎に進行するリスクが高い事が言われていますので、特に手や指や足の痛みや腫れに気を付けてくださいね。
※診断には、皮膚科の先生の診察や場合によっては生検といって皮膚の一部を顕微鏡でみる検査が大切です。気になる方は、ぜひ皮膚科の先生にご相談くださいね。
・20-40%の方に爪の症状がみられます。
・爪にポツポツ小さな凹みができる
・爪の横方向に溝ができて凸凹する
・爪の先端が浮いて剥がれてくる
・爪乾癬がある方は、乾癬性関節炎になる可能医が高く、特に爪すぐ下の関節(指の第一関節)が腫れて痛くなる事があるので、少し覚えておいてくださいね。
※どれも爪乾癬だけに診られる症状ではないですが、複数の手指・足指に診られるときは爪乾癬の可能性を考え皮膚科にご相談が良いかと思います
・指、手首、肘、肩、膝、足首、足の指の痛み:リウマチにそっくりな関節の痛みや腫れを起こしてきます。
区別が難しい事もありますが、リウマチの場合には他の指の同じ場所が痛くなるのに比べて、乾癬性関節炎の場合には1つの指の中で色んな関節が痛くなる特徴があります。
・指の第一関節(一番先端の関節、爪のすぐ下の関節)の痛み:リウマチでは症状が出にくい関節なので、リウマチとの見分けに使えます。乾癬性関節炎の方の30-50%の方に症状がみられます。また乾癬性関節炎が原因で指の第一関節に痛みが出ている場合には、その指の爪にも前述した乾癬の症状がみられる事が多いのも特徴です。
間違えやすいのは、変形性関節症という加齢による手指の第一関節の痛みです。
見分け方としては、乾癬性関節炎の場合には指の中で炎症が起きているので柔らかく膨らんでいるのに対して、変形性膝関節症は軟骨がすり減った分骨が太くなっているので硬く膨らんでいる点です。
また乾癬性関節炎が多いのは40歳台男性、一方で変形性関節症が多いのは40歳台女性の方で年齢とともに増えていくという違いもあります。
ソーセージ指とも呼ばれます。名前のとおり、1本の指全体がボテット腫れてソーセージのように見えます。
手の指より、足の指の方が出やすいので、足が痛い時などは靴下を脱いで確認してみてくださいね。
これもリウマチよりも乾癬性関節炎に多い症状になります。
また、この指全体の腫れがあると、将来的に骨が破壊されて変形などが進みやすい事が分かっているので、見逃さずにしっかり治療することがお勧めです。
乾癬性関節炎の方の30-50%に、アキレス腱や足底腱膜に炎症が起きて、踵や足の裏に痛みや腫れがみられます。リウマチでもみられることはありますが、乾癬性関節炎でみられることが多く、リウマチとの区別を考えるときにも役立ちます。
検査
乾癬性関節炎(かんせんせい かんせつえん)ってなに?
・皮膚科医師の診察:皮膚科医の診察や、生検という顕微鏡で皮膚を見る検査で診断します。
・リウマチ科医師の診察:僕らの様なリウマチ科の医師の診察で、関節や腱に炎症があるかどうかを確認します。
・関節エコー検査、MRI検査:関節や腱に炎症が起きているかをさらに詳しく検査します。
区別が難しい場合もありますが、リウマチの場合には関節の中の炎症がメイン、乾癬性関節炎の場合には、付着部(ふちゃくぶ)という関節からちょっとずれた腱やじん帯が骨にくっついている所に炎症が強くみられるので、そこで区別をしたりします。
・レントゲン:リウマチと同じく、関節が痛くなってすぐの早期診断は難しいですが、時間がたっての骨の変形が分かります。リウマチと違って、骨に穴が開くびらんという変化だけでは無くて、骨が過剰につくられる変化の両方がみられるのが乾癬性関節炎の特徴です。
・血液検査:
リウマチのCCP抗体やリウマトイド因子のようにズバッと診断に役立つ検査は、残念ながら乾癬性関節炎にはありません。CRPやMMP3といった炎症や軟骨のダメージを教えてくれる数値が高くなる事があり、関節に炎症が起きている可能性がある事を教えてくれます。ただ、これらはリウマチや他の膠原病など関節に炎症は起きる病気でも高くなり、乾癬性関節炎に限ったものではありません。
そのため、どちらかというと、リウマチやその他の膠原病が隠れていない事を確認するのに血液検査が役立ちます。
診断
診断には、キャスパー分類と言われる基準が使われます。
この基準の特徴は、「感度91.4%、特異度98.7%と両方が高くかなり性能が良い事」、「診断にはリウマチ医と皮膚科医の両方の診察が大切な事」、「昔乾癬があった事や家族に乾癬の方がいらっしゃることなどのお話しが大切な事」などがあります。
さくっと言うと、皮膚科で乾癬と診断された方で、手指や足指が腫れていて、リウマチの血液検査で引っかからない場合には、乾癬性関節炎の可能性がぐっと高くなります。
治療
皮膚乾癬や爪乾癬だけでしたら、皮膚科の先生のご治療となります。
皮膚科での塗り薬や、光線療法、最近ですとオテズラという飲み薬やIL23という物質を抑える生物学的製剤が使われています。
①飲み薬
リウマチの治療で大活躍してる飲み薬です。手・指・足などの関節の痛みや腫れ、指全体の腫れの治療に使われます。皮膚や爪の症状の改善も期待されます。僕たリウマチ医はいつも使っているお薬で、とても使い慣れているお薬になります。
オテズラ
皮膚や爪の症状を改善します、その効果はメトトレキサートと同じ位と言われています。関節の痛みに対する効果はメトトレキサートよりも弱いです。一方、メトトレキサートに比べて量の微調整や飲み方などが容易であるため、皮膚や爪の症状がメインの方によく使われます。
②生物学的製剤
TNFという乾癬性関節炎の炎症を起こしている物質を、ピンポイントで狙って治療する注射のお薬になります。もともとリウマチで使われていましたが、乾癬性関節炎でも関節の痛みが腫れを良くしてくれること、さらに皮膚や爪の症状も綺麗にしてくれることから、乾癬性関節炎のお薬としても認められました。飲み薬でも抑えられない関節の痛みや塗り薬で抑えられない皮膚症状の方、また飲み薬が効きにくい背骨や腰の痛み、アキレス腱の痛みなどでは最初から治療に使われることがあります。