<リウマチ検査の超強力助っ人、関節エコーをご存知ですか?>
エコー検査、超音波検査というと皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?
おそらく人間ドックでお腹を調べる検査、妊娠中にお腹の中の赤ちゃんを見る検査というイメージをお持ちではないでしょうか?
実はこのエコー検査、関節の中もみる事が出来てしまうのです!これを関節エコー検査と呼びます。
最近では、この関節エコー検査がリウマチを診断するのに欠かせない超強力な助っ人になっているんです。
<新米リウマチ医の悩み>
私が医師になったのはちょうど10年前になります。
大学病院の新米リウマチ医師として、緊張しながら外来診察をしていました。
そのころのリウマチの診断はレントゲンや触診でした。
しかし、いくら丁寧に触診をしても手の大きさや皮下脂肪の厚さは人それぞれ違いますし、加齢による関節の変化もあります。
またレントゲンもリウマチが進行して骨が壊れないと異常が分からないので、発症早期のリウマチは見逃されてしまいます。
「うーん、この指の腫れはリウマチか?それとも加齢変化かな?」
「リウマチだと思うけど、まだレントゲンでは異常が見えないな・・・」
といった診断に困ってしまう方に多く出会うようになりました。
MRI検査もあったのですが、予約制・高い・造影剤の副作用・一つの関節しか見られないなど、患者さんのご負担の大きい不便な検査でした。
こういった診断に困ってしまうような患者さんを、先輩医師も含め集まって議論するのですが、正直それでも100%正しい結論は出ませんでした。
「リウマチで骨が壊れる前に、早く診断して治療することが必要なのに。これではリウマチの診断が遅れてしまう・・・」
「僕のあの時の診断は本当にあっていたのだろうか・・・」
と外来が終わるたびに悩んでいたことを思い出します。
<関節エコーとの出会いと感動>
そんなの時に、海外では関節エコー検査というものでリウマチの診断をしていることを知りました。
なんと関節にエコーをポンッとあてるだけでその場でリウマチが分かってしまうのです。
またレントゲンに写らない早期のリウマチも見つけることができると言うではありませんか!
「これだ!この検査が出来ればもっと早期にしかも正確にリウマチの診断ができる!」
ただその頃の関節エコー検査はまだ研究段階で、日本では限られた施設で行われ始めているだけでした。
早速先輩医師にお願いをして、当時関節エコーの研究をされていた数少ない施設である横浜の大学病院に関節エコーの見学に行かせてもらいました。
そこで初めて関節エコーを見た時の感動を今でも覚えています。
関節エコーを腫れている指関節にポンっとあてると、まさに言葉通りに関節の中にメラメラした炎が見えるのです。
「これがリウマチの炎症なんだ!」と心の中で叫びました。
さらに、指、手、肩、足など検査したい関節にポンっと超音波を当てるだけで、あちこちの関節を一瞬で検査することができてしまいます。
またエコー検査なので全く患者さんにレントゲンのような被爆やMRIのような造影剤の負担もありません。
まさに夢の検査をみた気分で、「これで今まで診断が難しく悩んでいた患者さんの役に立てる!」とワクワクしながら電車に乗って帰ったのを覚えています。<関節エコー検査の修行、そして相棒に>
その後、自分の大学病院でも関節エコ―検査を始めました。
ただ関節エコー専用の機械はなかったので、甲状腺や頸動脈用のエコー機器を工夫して関節エコーとして代用しました。
リウマチの方はもちろん、医者の友達、薬剤師さん、さらには自分の関節など色々な方に関節エコ―を当てさせて頂き、修行の日々を過ごしていました。
すると、今までレントゲンや血液検査では異常がなくリウマチではないと思っていたような方の中に、早期のリウマチの方がいることが分かりました。
逆に、関節がはれていて今まではリウマチかもと思っていた方が、関節エコー検査でリウマチでないことが分かったりもしました。
そのうち、先輩医師から触知やレントゲンでは診断がつかなかった診断の難しい患者さんを「関節エコーで検査してくれ」と頼まれるようになり、ついに関節エコー専用のエコー機器を用意してもらいました。
その後は関節エコーに興味をもってくれる後輩医師もでき、大学に関節エコー検査専用の部屋ができるまでになりました。
まさに私のリウマチ医師として歩んだ10年、いつもとなりには関節エコ―検査があり一緒に成長してきた相棒のような感覚です。
<ここがすごい、関節エコー検査の4つのポイント>
関節エコーは、リウマチかどうかの診断に一番大切な「関節の中に炎症が起きているか」を眼で見る事ができます。
関節の中に炎症が起きていると、まさに文字通り「メラメラした炎」が関節の中に広がっているのが見えます。
実は血液検査で分かるリウマチは90%程度なのです。
つまり、10%程度(10人に1人)のリウマチの方は血液検査では分からないのです!
この診断の難しい隠れリウマチも関節エコーさえあれば簡単にみつけることができます。
正直、関節エコーが使われるようになる前は、隠れリウマチの方が診断できずに「まあ年のせいで痛いのかな?」とそのままになって関節が変形してからリウマチの診断になるといった残念なことがあったかと思います。
現在では関節エコーで診断の難しいリウマチの方も見逃さず、しっかりした治療を早く行うことで手指の痛みを無くして、関節の変形を起こさないことが可能となりました。
その②:リウマチの強さが分かる!
リウマチの強さも一人一人大きく違います。
同じリウマチ患者さんでも関節の中に大きな炎症が起きていて数か月のうちに関節の骨が壊れてしまう非常に進行の早い強いリウマチの方もいらっしゃれば、リウマチの炎症が関節にあるもののほんの少しで骨への影響も数年単位でゆっくりな方もいます。
そのリウマチの強さが、関節エコー検査を行うと一目で分かります。
関節の炎症の大きい方は、痛みをとるのはもちろん関節の骨を壊さないようにすぐにしっかりした治療が必要ですので、早期に生物学的製剤(リウマチの特効薬)などをお勧めします。
一方、関節エコーで関節の炎症がそこまで強くないことが分かった方は、おそらく飲み薬だけで良くなるだろうと見込みがあるので、飲み薬を少しずつ増やしながらリウマチを治していきます。
その③:リウマチが完全に治まっているか分かる⇒薬を減らせる!
リウマチが良くなるとどうなるでしょうか?もちろん痛みや腫れが無くなります。
また血液検査でもCRPなどの炎症の数字が良くなります。
しかし、指などの小さな関節にリウマチの炎症が残っていてもCRPが正常な事があります。
そのままにしておくと、指の骨が壊れて曲がってきてしまうかもしれません。変形を起こさないように、小さな関節の炎症の残りも見逃さないために関節エコーが活躍します。
また関節エコー検査をして、どの関節にリウマチの炎症が残っていない事が分かれば、リウマチが完全に治まっているといえます。
この場合に患者さんやご家族の希望にそって薬を減らしていくことも可能となります。
その④:全く体に負担がなく、その場で色々な関節を調べられる!
お腹にいる赤ちゃんをみるのに使われるエコー検査です。
レントゲンのように放射線などの心配もなく、全く体に害がありません。
また診察の時に「昨日から親指が痛いんです」と教えて頂ければ、その場でポンっと診察室においたエコ-でリウマチの炎症があるかを見ることができます。
「関節の中にリウマチの炎症は無いですね。
軟骨が少し減っているせいかもしれません。
手指を沢山使ったりしませんでしたか?」「あーそういえば畑仕事を週末に頑張っちゃいました、そのせいですね。」とリウマチの痛みなのか、そうでないのかがその場で分かります。
リウマチの痛みでしたらリウマチの薬を増やす必要がありますが、そうでなければ湿布や安静が大事になりリウマチの薬は増やさなくて大丈夫になります。
痛みの原因によって治療が変わってくるので、関節エコーで痛みの原因を調べる事はとても大切なんですね。