Q:NHKきょうの健康で「関節リウマチの進歩する薬の治療」が特集されていました。リウマチのお薬や治療について、教えてください。 (川口市 50歳代女性)


A:昔と違って、メトトレキサートという飲み薬や、生物学的製剤という注射のお薬、さらに最近ではJAK阻害剤という新しいタイプの飲み薬も登場し、ますますリウマチの治療は良くなってきています。
大切なのは、「①リウマチを早期に発見して、これらの素晴らしいお薬で早く治療を開始する事」、そして「②リウマチが良くなっても、お薬をきちんと継続する事」になります。


ワンポイント解説

〇現在のリウマチ治療の主役たちをご紹介

①メトトレキサート
リウマチと診断した時に、まず治療で使われるのがメトトレキサートというお薬になります。その効果を一言でいうと「従来の飲み薬とは違ってリウマチにしっかり効く」という所です。細かく言うと、メトトレキサートで治療をする事で、リウマチの痛みや腫れが良くなる、骨の破壊を抑える、さらに寿命が延びる事が分かっています。また、メトトレキサート以外のお薬との相性もよく、一緒に使う事でさらにリウマチに効く効果があります。極めつけはお値段で、値段が高いお薬が多いリウマチのお薬の中で3割ご負担で月に2000-3000円程度とコストパフォーマンスが高いお薬になります。
注意点は、腎臓が悪い、肺が悪い、妊娠・授乳などメトトレキサートが使えない方もいらっしゃるという事と、飲み方が変わっていて毎日飲んでは絶対ダメという事です。主治医の先生と決められた曜日に決められた量を使う事が大切なお薬になります。


②生物学的製剤
メトトレキサートだけでリウマチを抑えきれない、またはメトトレキサートが使えない方にお勧めなのが、この生物学的製剤になります。
この生物学的製剤の特徴は、リウマチを引き起こしている原因を調べて、その原因となる物質や細胞をピンポイントで狙ったお薬になります。サッカーをイメージしてもらうと、リウマチという敵チームのしっかり分析して、そのキーマンとなる1人の選手をがっつりマークしてボールを持たせないようにして、試合に勝つ作戦のお薬になります。
その効果は絶大で、メトトレキサートで抑えられなかったリウマチの方でも50-70%の方に改善がみられています。また、エタネルセプト(エンブレル)、シムジアといった妊娠や授乳中も使えるものがあるので、今まで治療に困っていた妊娠授乳中のリウマチの方も、しっかりと治療ができるようになりました。
一番の弱点はお値段で、バイオテクノロジーを使った精密なお薬になるので、月に数万円の費用がかかってしまいます。この点が、僕らリウマチ医も「患者さんに申し訳ないな」「もっと安くならないのかな」と思っておりましたが、最近ではバイオシミラーという安い生物学的製剤もでてきました。


③バイオシミラー
このバイオシミラーは、特許がきれた生物学的製剤を真似して作ったお薬になります。
製薬会社さんの研究費が無い分お値段が安く、ざっと今までの生物学的製剤の4割引きのお薬代に抑えられています。
ジェネリック薬品と何が違うの?という質問も良くいただくのですが、まったく同じ成分でつくったジェネリック薬品と違って、バイオテクノロジーまで使う生物学的製剤は精密すぎて全く同じものは作れません。しかし、極限まで同じになるようにバイオテクノロジーを駆使して、しかもジェネリック薬品とちがって、効き目や安全性が元のお薬と同じかどうかの厳しい試験をクリアーしたお薬になります。
またサッカーの例えで恐縮ですが、厳しい試験を受けて先輩と同じ能力があると認められレギュラーを任された後輩、それがバイオシミラーの生物学的製剤になります。
私たちのクリニックでも、このバイオシミラーを積極的に使っています。
今までお値段的に生物学的製剤が使えなかった方に使って頂けたり、またすでに生物学的製剤を使われている方もお値段が安くなって喜んで頂けたりと、バイオシミラーは大活躍をしています


④JAK阻害剤
この分野が、今一番新しいリウマチのお薬達になります。飲み薬なのですが、生物学的製剤と同じ位、さらにはもう少し効果があるのではないかと言われているお薬になります。
これも、生物学的製剤と同じくリウマチを引き起こしている仕組みを徹底的に調べて作ったお薬になります。
リウマチを引き起こしている仕組み中のJAKという部分に薬が効くことで、そのJAKに関わる免疫細胞達を大人しくさせてリウマチが起きるのを止めようと作られたお薬になります。
またまたサッカーの話で恐縮ですが、敵のリウマチチームのある1人を完全マークして試合に勝つ作戦の生物学的製剤に対して、敵チームのパス回しを完全にブロックして試合に勝つ作戦がJAK阻害剤のイメージかもしれません。
今までのメトトレキサートや生物学的製剤でも抑えきれないリウマチの方が、30-40%いらっしゃると言われているので、さらにリウマチ治療に頼れる仲間が加わりました。
現在、ゼルヤンツ、オルミネント、スマイラフ、リンヴォックと次々にお薬が登場しています。実はJAKも4種類あったりして、そのJAKを抑えるか?また腎臓で排泄するのか、肝臓で分解するのか?などが違う点で、僕らリウマチ医はこれらを考えてどの薬をおすすめするかを相談する事が多いです。
弱点としてはお値段で、効果があるぶん生物学的製剤と同じく月に数万円のお薬代がかかります。また帯状疱疹が少し増えると言われているので、皮膚に湿疹やピリピリした痛みが出てこないか注意する事がお勧めになります。


〇お薬も努力も継続が大切です
番組でもご紹介されていましたが、これらの素晴らしいお薬の登場と、関節エコー検査を始めとしたリウマチの早期診断で、骨の破壊が進む前から治療を始めれば手足の変形を防ぎ、発症前とほとんど変わらない生活を送ることもできるようになってきました。 ただ、リウマチを引き起こす免疫細胞が暴れないようにお薬で抑えているのが現状で、リウマチを引き起こす免疫細胞が無くなったわけではありません。
ですので「最近痛くないし、リウマチの薬はもうやーめた」と薬を自己判断で中断したり減量したりしてはいけません。また「サプリメントや漢方薬でリウマチが治り薬がいらなくなる」といった宣伝も、正直みんなが認めているようなものはありませんのでご注意頂けると幸いです。リウマチが再発をしてしまう可能性が考えられ、さらに今まで使っていたお薬の効果が無くなってしまったり、関節の変形が進んでしまう事があります。
ぜひ主治医の先生とご相談しながら、リウマチのお薬を続けて頂き、リウマチという病気が落ち着いた状態を保つことが何よりも重要だと思います。


参照:きょうの健康 免疫システムに異常!こう原病「関節リウマチ 進歩する薬の治療」
[NHKEテレ1・東京] 2020年12月15日 午後1:35 ~ 午後1:50 (15分)
出演者【長崎大学大学院 教授】川上純,【キャスター】岩田まこ都,永井伸一


文章 医師 佐藤理仁