イギリス政府から、リウマチの治療薬「トシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」が新型コロナウイルスの治療に有効であると発表がありました。トシリズマブは岸本忠三・元大阪大学長と中外製薬が開発された、日本製のお薬になります。


記事によると、集中治療室のコロナ患者さんに対してステロイドの一種「デキサメタゾン」など通常の治療をした場合の死亡率は35・8%だったのに対し、搬送から24時間以内に「トシリズマブ(=アクテムラ)」なども追加で使った場合は27・3%まで低下したという事です。
またコロナ患者さんの状態が良くなり、集中治療室から一般病棟に移れる期間も7~10日間短縮できたということで、イギリスでは今後、集中治療室に運ばれた患者に対して使用されるようです。
つまり、リウマチの治療薬「トシリズマブ(=アクテムラ)」や「サリルマブ(=ケブザラ)」を使う事で、集中治療室に運ばれるような重症のコロナ患者さんの死亡率が下がり、また回復も早くなるという事です。



なぜリウマチの治療薬「トシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」がコロナ治療に有効なのでしょうか?

その答えは、重症のコロナ患者さんの体の中では、リウマチや膠原病と同じく免疫細胞が暴走し悪さをして、重症の肺炎などを引き起こしているからです。そのため、リウマチの治療薬「トシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」で免疫の暴走を止める事で、重症コロナの治療に役立つと考えられます。

もっと詳しく見ていくと、リウマチの治療薬「トシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」は「IL6」という物質を吸着して免疫細胞の暴走を抑えるお薬になります。
さてこの「IL6」というのはどんな物質なのでしょうか?人間の体には沢山の細胞があり、それぞれ協力しあって日々生きています。そんな沢山の細胞同士が情報交換をする時に使う物質があり、それをまとめて「サイトカイン」と言います。
サイトカインには沢山の種類があるのですが、その一つが今回注目の「IL6」になります。
この「IL6」は体の中で免疫細胞の働きを活発にして、ウイルスや細菌などを体から排除する役目があります。
しかし、このIL6」が沢山作られ過ぎてしまうと、免疫細胞が活発になり過ぎて自分の体をも傷つけてしまう事になります。さらにIL6が増え過ぎてもう誰も免疫細胞の暴走を止められない、そんな嵐のような状況を「サイトカインストーム」と呼びます。

もう少し分かりやすくするために、体の中で細胞同士がTwitterに色々な種類のサイトカインをツイートしてコミュニケーションをしているのをイメージしてみてください。

本物のTwitterでも変なツイートをすると炎上してしまうように、炎上してしまうような内容のサイトカインを発信すると、沢山の免疫細胞達が興奮してリツイートしまくって大炎上を起こします。このサイトカインTwitterの大炎上がサイトカインストームのイメージです。この炎上を起こすツイートの代表がIL6になります。

リウマチでは手足の関節の中でIL6を中心としたサイトカインが炎上し、免疫細胞が興奮して暴れて痛みを起こします。他の膠原病でも、腎臓や皮膚など色々な場所でIL6などのサイトカインが炎上し免疫細胞が暴れて悪さをします。 コロナの重症肺炎の場合には、肺の中でサイトカインがリツイートしまくり大炎上、そして免疫細胞が暴れて肺を壊して呼吸ができなくなってしまいます。ここで期待されるのが、リウマチで使われるトシリズマブ(=アクテムラ)」や「サリルマブ(=ケブザラ)」でIL6を吸着しサイトカインストームを抑えて、免疫細胞の暴走を抑える働きなのですね。

ただ、勘違いしてはいけないのは、これらのトシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」はあくまで免疫の暴走を抑えるだけで、コロナウイルス自体をやっつける効果は無いという事です。
レムデシベルのようなコロナウイルス自体をやっつけると期待されている抗ウイルス薬とは別物なので、分けて考える必要があります。

特に、症状の軽いコロナ感染の方や、初期のコロナ感染では、あまり免疫の暴走は関与していないと言われているので、トシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」は効果が期待できないばかりか、正常のウイルスを排除しようとする免疫まで抑え込んでしまう可能性も指摘されています。

なので、日本リウマチ学会からは「新型コロナ感染が怪しい時は、今回のトシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」を含めた生物学的製剤や<メトトレキサートといったリウマチの薬、膠原病の免疫抑制剤は一時中止か減らしましょう。一方でステロイドはそのまま同量を続けましょう」と発表されています。
ざっくりいうと、「どんなに調子が悪くてもステロイドはそのまま続けてくださいね、その他のリウマチのお薬はトシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」も含め調子悪ければいったんお休みを考えてくださいね。」となりますので、誤解ないようにしてくださいね。

今回のトシリズマブ(=アクテムラ)」と「サリルマブ(=ケブザラ)」に関しては、あくまで集中治療室に運ばれるような免疫が大暴走をしている重症のコロナ患者さんに有効という話なので、自分の判断でこれらの薬を使う事は危険です。あくまで医師が必要性を判断して使うものになります。

くれぐれもリウマチの薬をつかっているから、逆にコロナにかかりにくいなどと誤解しない様に感染予防対策をしてくださいね。


文章 医師 佐藤理仁